2026年10月号掲載 ノンフィクション作家/藤原章生 8月のお盆明け、南アフリカから2カ月ぶりに日本に戻り、ある変化に気づいた。前ほどメモをとらなくなったのだ。考えてみたら、新聞記者になろうと思い立った27歳からこの方、38年もの間、私はいつもメモ…
2026年9月号掲載 ノンフィクション作家/藤原章生 「いずれ、内戦になる」と男は言った。匿名は本人の希望だ。「南アフリカの白人がアフリカのことを喋ると、やれ、白人が何を言ってやがる、という人種騒ぎになるから」と言う。それもあるが、彼の経歴から、…
2026年8月号 ノンフィクション作家/藤原章生 夢で何がわかるのか。現在私が探っている南アフリカのシャーマン、クレド・ムトゥワ(1921-2020)は夢を通して未来を読むことができた。古くは1960年代のアフリカ各国の独立をめぐる内戦、南アフリカの白人政権…
2026年7月号掲載 ノンフィクション作家/藤原章生 ジャスティスと知り合ったのは2024年正月のことだ。南アフリカ・ソウェトの友人宅で居候を始めた日の酒盛りで意気投合した。怪力を絵に描いたような男だ。 大柄で肉体労働独特の胸板の厚い、いい体をしてい…
2026年6月号掲載 ノンフィクション作家/藤原章生 14歳上の先輩記者を自宅に招き、岡山風モダン焼きをふるまったあと、こんなメッセージがきた。「貴兄は解放されたいい顔をしていました。知らず知らずのうちに心の重石になっていた毎日新聞のストレスがなく…
2026年5月号掲載 ノンフィクション作家/藤原章生 夕刻、ベッドで本を読んでいたら寝てしまい、目覚めると奇妙な錯覚に襲われた。 シミュレーション・プログラムをつくっているとき、PC9800を前に寝落ちしたと思ったのだ。プログラムのバグを見つけ、空気摩…
2026年4月号掲載 ノンフィクション作家/藤原章生 南アフリカの預言者、クレド・ムトゥワは1985年5月に広島で泣いた。人生最初で最後の日本体験だった。京都の国際会議に招かれたあと広島を訪れ、平和記念資料館の展示物を見たムトゥワは涙にくれ、深い悲し…
2026年3月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 年明け早々、トランプ政権の軍事介入で大統領夫妻が連れ去られたベネズエラは一 応の平穏を保っている。国連など国際社会に向け、米国を批判はしても、武力で抗おうとはしていない。米国に言われるまでもなく、…
2026年2月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 「ならず者国家」という言葉を広めたのはアメリカ人だ。言い出したのはクリントン時代の高官だが、この国の政治家はそれ以前もその後も似たような言葉をずっと使ってきた。1980年代のレーガンのころは「無法者国…
2026年1月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 携帯電話を触ると、AI(人工知能)が勝手なものをどんどん差し出してくる。「これ、好きでしょ」「見たいでしょ」と。 たとえばフェイスブックの場合、私が使い始めた2008年ごろは、友人や仲間が近況や自慢話を…
2025年12月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 先日、3日間の断食をした。これまで、経験者には何度も会ったが、自分でするのは初めてだ。食あたりや腸カタルで断食せざるを得なかったことはあったが、あえてやったことはなかった。 2025年10月半ば、南アフ…
2025年11月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 9月19日、南アフリカのヨハネスブルクに着くと、すぐにレンタカーで地方へ出かけた。各地に暮らす友人たちに25年ぶりに再会するのと、「カルー」と呼ばれる土地を見るのが目的だった。 まずはソウェトの居候先…
2025年9月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 お盆恒例の沢登りに今年も出かけた。いつもと同じ、10歳下の沢登り名人、松原憲彦(のりひこ)との旅だ。秋山郷を南下し、新潟県境の長野県栄村から佐武流山(さぶりゅうやま)(2192m)を目指した。 初日は林道…
2025年9月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 この7月初め、浅間山近くの山に登った帰り、長野市の友人に会いに行った。車をとめた地蔵峠から南に行き、関越道に乗っても良かったが、同じ時間なので北の道を選んだ。ナビゲーションに従い車を走らせると、し…
2025年8月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 連載をはじめるときはいつも身震いする気分だ。8月にはじめる連載のタイトルを「アフリカのシャーマン」、副題を「クレド・ムトゥワと神様」と先月書いた。が、それから1カ月がすぎ「不思議なムトゥワ」に変え…
2025年7月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 私は何をすべきなのか。南アフリカのシャーマン、クレド・ムトゥワのことだ。南アの古い友人から「お前は一度彼に会っている」と断言されながら、私は彼とのことが全く記憶になく、現時点でその証拠もつかんでい…
2025年6月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 南アフリカ、ソウェトの居候先には毎日いろんな人がくる。家主のケレや妻のムバリ、離れに住んでいる息子夫婦はもちろん近所の人がよくくる。 「ウラレ・ガーヒェ(よく眠れた)?」「ウンジャニ(元気)?」と…
2025年5月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 南アフリカを離れ帰国する前、近所のシェビーン(安酒場)に顔を出すと、かっぷくのいいママ・ロロがふてぶてしい声で言った。「アキオ!結局、あんたに紹介できないままだったね」。「何をだよ」と聞き返すと、…
2025年4月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 南アフリカのソウェトで二度目の居候を始めて4カ月がすぎた。まもなく日本に帰るが、最近、夢をズールー語でみるようになり、自分でも驚いて目覚めることがある。そんな夢はいつも穏やかだ。近所で行き交う人の…
2025年3月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 アフリカダニ熱にかかり寝込んでいる。1月下旬、南アフリカの東部ムプマランガ地方の山中で大量のダニに噛まれ、6日後に発熱し、それから1週間たっても治らない。37℃台前半の発熱が毎日朝夕2回訪れ、筋肉痛、倦…
2025年2月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 いま暮らしている南アフリカの家はいわゆる2世帯住宅だ。平屋の母屋に友人ケレが妻のバリと女児と、離れの2階にケレの息子夫妻が12歳の娘と住んでいる。私の部屋は、離れの下の階だ。 ケレ夫妻、それにケレの息…
2025年1月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 クレド・ムトゥワ(Credo Mutwa)という名をかすかに覚えていた。南アフリカの民 族、ズールー出身の哲学者だ。日本語だとクレドと表記されるが、ズールー語で「C」は舌先を前歯の裏に当てチッと発音する。不満…
2024年12月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 11月7日、成田をたち、再び南アフリカに向かう。4月に帰ってきたときに決めていたため新鮮味はないが、今回は来年3月まで滞在し、なんとしてでもズールー語をものにしたいと思っている。 私はこれまで英語を…
2024年11月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 8月11日に落石で左足をけがしてから9月11日まで、私は災難つづきだった。ヒビの入った足は腫れがひかないため、私は空手の稽古も休み、長い散歩もしないようにしていた。そして8月19日、妻が前から予定して…
2024年10月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 この夏、お盆休みの長い山登りでちょっとした事故に遭った。50cm四方、厚さ20cmほどの岩が左頭上から落ちてきて、その下を歩いていた私は瞬時に左足を引っ込めたが間に合わず、足先に激しい痛みを覚えた。「ガ…
2024年9月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 新聞記者になりたてのころだから28歳の年、長野市に暮らしていた私はのちのちまでつき合うようになる友人2人と出会った。ひとりはトモさんという少し年上の人で当時、長野外国語センターという英語学校の講師を…
2024年8月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 先輩記者、岩橋豊さんの訃報を聞いたとき、「えーっ」と声を上げてしまったのは 、数日前から彼のことを思い出していたからだ。普段は思い出さないのにそのときは立て続けだった。 私は今年4月6日、南アフリカ…
2024年7月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 5月、立て続けに先輩記者たちの偲ぶ会が開かれた。一人は昨年末に亡くなった元ソウル、ワシントン特派員の中島哲夫さんで、享年66。50代半ばで若年性アルツハイマーを発病し、社説を書く仕事ができなくなり、人…
2024年6月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 先日、久しぶりに東京の神保町で麻雀をした。きっかり午後5時半に到着すると、すでに3人は勢ぞろいしていて、あいさつもそこそこに勝負が始まった。こちらは半年ぶりだし、アフリカから戻ったとみな知っている…
2024年5月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 南アフリカから22時間かけて成田空港に着いた途端、すでに「日本モード」に なっている自分に気づいた。飛行機から降りると、いそいそとチケットを買い京成スカイライナーに乗った。土曜日の午後9時。普段はガ…