自分が変わること

月刊「点字ジャーナル」連載コラム

2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧

アフリカに行く理由

2023年8月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 「お父さん、過去に囚われてるんじゃないの。ノスタルジーはダメだよ」。ロサンゼルスから一時帰国している娘にそう言われた。「カズオ・イシグロが書いているのはずっとそのことなんだよね。過去に囚われている…

台湾のやわらかさ

2023年7月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 この5月中旬、台湾にはじめて行った。アメリカから一時帰国している30歳の娘と妻との家族旅行で、事実上、台湾にいられたのは2日半だったが、とてもやわらかな、いい印象が残った。 私はアフリカ、ラテンアメ…

老けない男

2023年6月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 コロナのせいで疎遠になっていた兄と昨日、しばらくぶりに話をした。兄は父が死んだあと、千葉県にある自分のマンションを人に貸し、東京の足立区の実家で母と同居するようになった。18年半も前の話だ。兄弟で話…

「さらば、あとはよろしく」

2023年5月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 追っかけ、という言葉がある。歌手でも俳優でも、その人をずっと見ているファンのことだ。私にもそういう対象が一人いる。俳優の加藤健一さんだ。追っかけというほどではないが、ここ数年、この人の舞台はほぼす…

年寄りの冷や水というけれど

2023年4月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 久しぶりにお会いしたバイオリニスト、黒沼ユリ子さんに「おいくつになった?」と聞かれ、「61です」と答えたら、「わっかいわねえ」と声を上げた。80代から見れば61は若いのだろう。頭ではわかる。だがその感覚…

偶然みつけた、死についての言葉

2023年3月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 作家の赤瀬川原平さんに『世の中は偶然に満ちている』(筑摩書房)という本がある。2014年に亡くなったあと、妻の尚子さんが、赤瀬川さんが書き残した「偶然日記」をもとにまとめたものだ。日記にはその日みた夢…

空手バカの肋骨2本

2023年2月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 私はバカみたいに習い事、お稽古事ばかりやっている。なんでなのかわからないが 、大人になってから、いい年をしてから始めてしまい、どれ一つ、大したレベルに達していない。 古い順からあげれば、まずはクライ…

声が笑っている人

2023年1月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 この人は声が笑っている。悪い意味ではない。ふざけているということではない。声が明るいということだが、そう単純でもない。その人の前向きさとでも言おうか、生きていること、直面していることを好奇心たっぷ…

世界はフラットにもの悲しくて

2022年12月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 『ニューヨーク・タイムズ』の2022年10月29、30日付紙面に面白いコラムが載っていた。デイビッド・ブルックス氏の「グローバルな悲しみの波」という記事だ。ブルックス氏はときどき目を引く時代論を書く。この…