自分が変わること

月刊「点字ジャーナル」連載コラム

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

信じる人にひかれて(その3)

2010年7月号掲載 毎日新聞ローマ支局長/藤原章生(当時) 次に映った写真は最初のものより異様だった。それは2003年の7月のことだ。その前の年、02年の4月に東京からメキシコ市に赴任した私は、日系ペルー人の議会弁護士、アントニオ・アロステギ・ヒラ…

信じる人にひかれて(その2)

2010年6月号掲載 毎日新聞ローマ支局長/藤原章生(当時) 「わっ、何、これ……。お化け」ーー。その写真を妻に見せると、彼女の反応ははっきりしていた。「お化け?」「だって緑色じゃない」「緑色だからって、お化け?」「でも、絶対、これは何か変よ。普…

信じる人にひかれて(その1)

2010年5月号掲載 毎日新聞ローマ支局長/藤原章生(当時) キリスト教の知人、ダニエレは2週間に一度のペースでうちに来る。バチカンを取材するため聖書を読んでいたときに知り合い、訪ねて来るようになった。彼の教科書的な話に私が問いをぶつけ、彼が「そ…

死を前にした感覚(その4)

2010年4月号掲載 毎日新聞ローマ支局長/藤原章生(当時) 2009年11月、初めてベルリンに行った。ベルリンの壁崩壊から20年がたち、何か書いてくれという話が職場から入り、ローマから向かった。行く前のイメージとはずいぶん違う、とてもいい感じの町だった…

死を前にした感覚(その3)

2010年3月号掲載 毎日新聞ローマ支局長/藤原章生(当時) 屋久島はうっそうとしている。私が宙づりになった谷の岩壁も、ロープで下りはじめたときは谷底が見えなかった。それで気を抜いたのだ。普段なら首にぶら下げている細いロープの輪、シュリンゲを忘れ…

死を前にした感覚(その2)

2010年2月号掲載 毎日新聞ローマ支局長/藤原章生(当時) ほどなく腕の力は尽きる。最後は握った両手がずるずるとロープを滑りだし、手の平を摩擦で焼きながら一気に墜落し、頭が谷底に激突する。 火事場の馬鹿力というが、人間の能力はかなりのものだ。「…

死を前にした感覚(その1)

2010年1月号掲載 毎日新聞ローマ支局長/藤原章生(当時) 2005年の11月、父が死んだ。私は死に目に会えなかった。私はそのころ、メキシコに暮らしており、日本からの電話で危篤を知った朝、国際会議の取材で南米のチリに向かった。日本の首相が中国の国家…

女性ゲリラとの出会い(その2)

2009年12月号掲載 毎日新聞ローマ支局長/藤原章生(当時) 20年は長いのか短いのか。今、この原稿を書いているベルリンでは、ちょうど壁崩壊20年の式典をやっている。自分の年齢もあるのだろうが、ずいぶん前のようでいて、実はつい昨日のことのように思え…