自分が変わること

月刊「点字ジャーナル」連載コラム

自分が変わること

浦島太郎みたいな性格

2024年12月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 11月7日、成田をたち、再び南アフリカに向かう。4月に帰ってきたときに決めていたため新鮮味はないが、今回は来年3月まで滞在し、なんとしてでもズールー語をものにしたいと思っている。 私はこれまで英語を…

予感はエゴイスティック

2024年11月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 8月11日に落石で左足をけがしてから9月11日まで、私は災難つづきだった。ヒビの入った足は腫れがひかないため、私は空手の稽古も休み、長い散歩もしないようにしていた。そして8月19日、妻が前から予定して…

予感とは、体の叫び

2024年10月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 この夏、お盆休みの長い山登りでちょっとした事故に遭った。50cm四方、厚さ20cmほどの岩が左頭上から落ちてきて、その下を歩いていた私は瞬時に左足を引っ込めたが間に合わず、足先に激しい痛みを覚えた。「ガ…

原稿書きと友情と

2024年9月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 新聞記者になりたてのころだから28歳の年、長野市に暮らしていた私はのちのちまでつき合うようになる友人2人と出会った。ひとりはトモさんという少し年上の人で当時、長野外国語センターという英語学校の講師を…

レクイエムの月(下)

2024年8月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 先輩記者、岩橋豊さんの訃報を聞いたとき、「えーっ」と声を上げてしまったのは 、数日前から彼のことを思い出していたからだ。普段は思い出さないのにそのときは立て続けだった。 私は今年4月6日、南アフリカ…

レクイエムの月(上)

2024年7月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 5月、立て続けに先輩記者たちの偲ぶ会が開かれた。一人は昨年末に亡くなった元ソウル、ワシントン特派員の中島哲夫さんで、享年66。50代半ばで若年性アルツハイマーを発病し、社説を書く仕事ができなくなり、人…

欲望が消えたのか

2024年6月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 先日、久しぶりに東京の神保町で麻雀をした。きっかり午後5時半に到着すると、すでに3人は勢ぞろいしていて、あいさつもそこそこに勝負が始まった。こちらは半年ぶりだし、アフリカから戻ったとみな知っている…

東京人のけなげさ

2024年5月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 南アフリカから22時間かけて成田空港に着いた途端、すでに「日本モード」に なっている自分に気づいた。飛行機から降りると、いそいそとチケットを買い京成スカイライナーに乗った。土曜日の午後9時。普段はガ…

ズールー語と和歌

2024年4月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 南アフリカに3カ月という長い日程を組んだのはズールー語を学ぶためだった。西アフリカを旅行中、人の家に泊めてもらううちに、現地のアフリカ言語を自分のものにしたいという欲がでてきた。そのためには、まず…

23年のタイムトラベル

2024年3月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 南アフリカに着いて間もないこの1月、私は友人につき合い、ショッピングモー ルにある銀行のベンチに座っていた。 モールの玄関口や駐車場で暇そうに佇んでいる人の姿は昔と変わらない。だが、 買い物に来る人は…

アフリカ人を前に変わった自分

2024年2月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 アフリカ大陸の旅もあっという間に2カ月。昨日、西アフリカのコートジボワール最大の都市、アビジャンに着いたところだ。もう少し先に進んでいるはずだったが、ずいぶんと長居してしまった。 スペイン、モロッ…

ガンビアで目にしたシスターたち

2024年1月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 アフリカ旅行を始めてそろそろ1カ月になり、西アフリカの小国、ガンビアでこんな光景を目にした。 しばらく路上で待っていると、目当ての行き先に行く大型のワゴン車が客寄せを始め、10人ほどが一斉にバスにか…

無目的な旅は人を寂しくさせるか

2023年12月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 珍しく感情が波打った。割とすれっからしで、感情の上下が乏しい方だが、日本を出るとき、寂しい気持ちになった。スペイン経由でアフリカへ半年ほど行くため、この11月6日、妻と羽田空港に向け車を走らせてい…

心の恩人、中村寛子シスター

2023年11月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 猛暑の終わりのころ、シスターの中村寛子さんを訪ねた。この方に会うのは2001年1月以来なので22年半ぶりである。当時、彼女はコンゴ民主共和国、旧ザイールの首都キンシャサにある修道院にいた。私は5年半のア…

アフリカ本を読む 田中真知さんの本大当たり

2023年10月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 この夏は前よりも時間ができたので、仕事以外の本を結構読んだ。コロナで入院したちょうどその日、2021年5月1日に60歳になり、毎日新聞社を定年退職したのだが、年金がもらえるまで、パートのような形で働ける…

自問自答は癖なのか

2023年9月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 みながしていると思っていたことが、そうでもないことが、年をとってからわかるものだ。例えば、常に音楽が頭の中で鳴っていること。これは大方の人がそうだろう。私の場合、登山中に顕著になる。先日、北アルプ…

アフリカに行く理由

2023年8月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 「お父さん、過去に囚われてるんじゃないの。ノスタルジーはダメだよ」。ロサンゼルスから一時帰国している娘にそう言われた。「カズオ・イシグロが書いているのはずっとそのことなんだよね。過去に囚われている…

台湾のやわらかさ

2023年7月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 この5月中旬、台湾にはじめて行った。アメリカから一時帰国している30歳の娘と妻との家族旅行で、事実上、台湾にいられたのは2日半だったが、とてもやわらかな、いい印象が残った。 私はアフリカ、ラテンアメ…

老けない男

2023年6月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 コロナのせいで疎遠になっていた兄と昨日、しばらくぶりに話をした。兄は父が死んだあと、千葉県にある自分のマンションを人に貸し、東京の足立区の実家で母と同居するようになった。18年半も前の話だ。兄弟で話…

「さらば、あとはよろしく」

2023年5月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 追っかけ、という言葉がある。歌手でも俳優でも、その人をずっと見ているファンのことだ。私にもそういう対象が一人いる。俳優の加藤健一さんだ。追っかけというほどではないが、ここ数年、この人の舞台はほぼす…

年寄りの冷や水というけれど

2023年4月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 久しぶりにお会いしたバイオリニスト、黒沼ユリ子さんに「おいくつになった?」と聞かれ、「61です」と答えたら、「わっかいわねえ」と声を上げた。80代から見れば61は若いのだろう。頭ではわかる。だがその感覚…

偶然みつけた、死についての言葉

2023年3月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 作家の赤瀬川原平さんに『世の中は偶然に満ちている』(筑摩書房)という本がある。2014年に亡くなったあと、妻の尚子さんが、赤瀬川さんが書き残した「偶然日記」をもとにまとめたものだ。日記にはその日みた夢…

空手バカの肋骨2本

2023年2月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 私はバカみたいに習い事、お稽古事ばかりやっている。なんでなのかわからないが 、大人になってから、いい年をしてから始めてしまい、どれ一つ、大したレベルに達していない。 古い順からあげれば、まずはクライ…

声が笑っている人

2023年1月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 この人は声が笑っている。悪い意味ではない。ふざけているということではない。声が明るいということだが、そう単純でもない。その人の前向きさとでも言おうか、生きていること、直面していることを好奇心たっぷ…

世界はフラットにもの悲しくて

2022年12月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 『ニューヨーク・タイムズ』の2022年10月29、30日付紙面に面白いコラムが載っていた。デイビッド・ブルックス氏の「グローバルな悲しみの波」という記事だ。ブルックス氏はときどき目を引く時代論を書く。この…

つましくも、ドロップアウトできた1980年

2022年11月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 1980年ごろの日本社会の雰囲気をうまく書けないだろうかと、1年ほど前から考えてきた。というのも、昨年秋から今年春まで新聞連載した評伝、「酔いどれクライマー」の舞台がこの時代だったからだ。主人公の永田…

東京ならではの独特の雰囲気

2022年9月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 しばらくぶりに海外から戻ると、日本、特に私が暮らす東京には独特のムード、雰囲気があることに気づく。空から見た日本はとにかく緑が多い。アメリカのロサンゼルスなど砂漠に切り開いた街から戻ると、田んぼや…

人間はもともとみないい人なんだ

2022年8月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 南米を旅行しながら「ブルネラブレ(vulnerable)」という言葉について考えた。あまり会話では使われないが、英語にも同じブルネラブルという言葉がある。辞書で調べてきた単語なので、「ぜい弱さ」という言葉が…

近未来への鍵、リベルタード

2022年7月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 今いる南米のチリで、あらゆるチリ人たちからよく聞いたスペイン語は、リベルタード(libertad)だった。日本語に訳せば「自由」だが、束縛から逃れる「解放」や「フリー」といった意味で気軽に使われる。「首都…

チリに残っていた「ヒッピー文化」

2022年6月号掲載 毎日新聞契約記者/藤原章生 私が小学校に入ったころだから1968年の夏、「ピンキーとキラーズ」というグループの歌「恋の季節」が大ヒットした。「忘れられないの/あの人が好きよ/青いシャツ着てさ/海を見てたわ」と歌う女性、ピンキーを…