自分が変わること

月刊「点字ジャーナル」連載コラム

佐藤愛子さんと会う(その1)

2012年11月号掲載

毎日新聞夕刊編集部記者/藤原章生(当時)

 

 ここ最近、どういうわけかスピリチュアル好いている。そういう人達が取材対象になることが多い。私はこの春から毎日新聞の特集ワイド面に記事を書いているが、テーマやインタビュー相手を自分で選ぶこともあるが、編集側が決めることが多い。編集側に意図はないし、私もあえて探るつもりはないのだが、何となくそういう人たちと出会う。

 女優の大竹しのぶさんから亡くなったお父様の話を聞いたとき、「私の父は私の母の父を尊敬していて、それが清貧の思想の人で、イタリアのアッシジの……」と言い出した。「アッシジの聖フランチェスコの廟に、行かれました?」と聞くと、声色がぱっと明るくなり「はい、行きました。もう、すごいですね。すごい。あそこ、もう大好きで、一度しか私は行けてないんですけど」と、その聖人の遺体が収まる棺(ひつぎ)が醸し出す霊的な雰囲気、果ては彼女のルーツでもある信仰の話へと進んでいった。

 次の取材対象は批評家の小林秀雄だったが、新潮社がCDとして出している講演録「信じることと考えること」を聞き、彼が霊や魂の存在を深く信じていたことを私は知った。新聞記事では彼が昭和23年の時点で原子力に「嫌な感じ」を抱いた予兆や、独裁論を中心に据え、霊の話には触れなかった。

 その原稿が終わると、88歳の作家、佐藤愛子さんと、「スピリチュアリティの興隆」などを著した東大の宗教学教授、島薗進さんを取材せよと命じられたので、どうもスピリチュアル好いていると感じたのだ。

 島薗さんとはテーマが原発だったので、その話に終始した。一方、佐藤さんとは世田谷のご自宅で話し込んだが、ごく自然に霊にまつわる話に入っていった。

 お別れ間際、熱いお茶を飲みながら、佐藤さんはこんな事を言った。

 「きょうはずいぶんいろいろお話しましたね。私、北海道の話から始めたでしょ。何も聞かれない先から自分から話し始めましたでしょ。あれはある種の第六感、テレパシーというのか、これは話してもいいんだよって。普通は言わないんですよ。わからないだろうからって。自分でも不思議なのは、いきなり始めたでしょ。だからやっぱり、なんかあるんだな。普通のインタビュアーは自分とは無縁の世界ですから、なんていうか聞き流しますよ」

 確かにカメラマン2人とともに世田谷区太子堂のご自宅にうかがい、「夏はずっと北海道におられたんですね」と私が問いかけると、「そうです、40日ほどね」と答え、佐藤さんは北海道・浦河町に建てた別荘での霊体験を話し、私は時折相づちや小さな問いを挟むだけだったが、するすると3時間半も話し続けた。

 私は実は51歳という年齢について聞こうと思っていた。著書「私の遺言」で、母が逝きしばらくたった51歳のとき、「さあ見ろよ」という感じで、霊的な世界が彼女の前に現れたことを彼女は記している。それをしずめるのに20年もかかったわけだが、なぜ、51歳だったのかに興味があった。

 私の場合、39歳のとき南アフリカで異常に強い光の写真を撮ったのが始まりだった。佐藤さんが「51歳」と繰り返し書いていることと、私が今、たまたま51歳であることに偶然を感じ、そこからとりつけば、話が広がる気がしていたのだ。

 彼女の場合、私のように写真や録音といった軽いものではなく、より激しい超常現象を体験し体調も崩した。その際、最後は神道家に頼むが、最初のころ美輪明宏さんや江原啓之(えはらひろゆき)さんに助けを求めたことがあったので、「江原さんはなんで急にテレビに出なくなったんですか」と聞いてみると、佐藤さんはきっぱりという風にこう言った。

 「霊視ができなくなったんだと思いますね。間違えたことがときどきあってね。『亡くなったお父さんがあの世で嘆いてますよ』と言ったのに、そのお父さんがまだ生きているとかね。そういう話がときどき出るようになったんですよ。ああいう能力ってのは物質的にお金とか有名とかそういうことに関心を持つようになるとなくなっていくんですよ。江原さん自身そう言ってたんですよ。それがああしてテレビに出てああいうふうになっていくと」

 「そのことを忘れちゃうんですか」  「そう。忘れちゃうのは、私、何かが(彼に)憑依したと思うんですよ。それで霊視できなくなったから、出なくなったんです。私はテレビに出るのは猛反対したんですよ。あの人は自分でも『僕は気が弱いのが欠点で』って言ってて本当に気の弱い人でね。でも、美輪明宏に言われると断れないんですよ。美輪さんも霊能はあるけど、修行していないと段々衰えるんです。あれは世のため人のために使う物ですから。金持ちやテレビ相手にやっているとだめなんです。昔、宜保愛子(ぎぼあいこ)という人、いたでしょ。あの人もダメになったでしょ。テレビっていうのは本当に良くないんですよ。

  江原さんの師匠だった寺坂さんという立派な霊能者が、『江原は金に卑しいからダメだ』って言ってましたね。江原さんのこと、評価してなかったですね」  霊的な世界に生きる者は名声や富を求めてはいけないという話は私もこれまで世界各地で聞いてきた。江原さんが確かにテレビに出なくなっただけに、佐藤さんの言葉はずいぶん説得力があるように思えたが、江原さん本人がそれを認めない限り、確かめようがない。

(この項つづく)

 

●近著紹介

『差別の教室』(2023年5月17日発売、税込1,100円、集英社新書)

心に貼りつく差別の「種」は、
いつ、どこで生まれるのか。
死にかけた人は差別しないのか──?

新聞社の特派員としてアフリカ、ヨーロッパ、南米を渡り歩いてきた著者は、差別を乗り越えるために、自身の過去の体験を見つめ、差別とどう関わってきたか振り返ることの重要性を訴える。
本書では、コロナ禍の時期に大学で行われた人気講義をもとに、差別の問題を考え続けるヒントを提示。世界を旅して掘り下げる、新しい差別論。