自分が変わること

月刊「点字ジャーナル」連載コラム

変わる気持ち、追いかける言葉

2014年2月号掲載

毎日新聞郡山通信部長/藤原章生(当時)

 

 昨年10月、若い同僚に「藤原さん、ツイッター始めたらどうですか」と言われた。自分の記事が時折そこで話題になったり、批判されているのは知ってはいたが、目の毒、煩わしいと思って長く食わず嫌いで避けてきた。ところが、昨年、毎日新聞のサイトを刷新するに当たり、「記者個人のページ」を始めてくれと言われ、どうしたものかと困っていたとき、その同僚にこう言われたのだ。

 

 「記事を書いて、はい、それまでではなくて、やっぱり、それを広く売り込まないと。いろんなところにいろんなお客さんがいるんですから」というのが、ネットに詳しいその同僚の助言だった。 私は早速、実名で自分のツイッター@serioakio)を開き、これまでのところ、もっぱら「こんなの書きました」と自分の記事の宣伝に使ってきた。

 

 すると一回りほど上の知人がわざわざ電話してきて「この@serioakioのserioってのは何だ?」と聞いてきた。「serioはイタリア語で真面目って言う意味ですけど」「ははは、真面目って、正反対じゃないか、nonserioにしろよ。不真面目なアキオに」「いや、僕はいつも真面目ですよ」「あはは、よく言うよ」

 

 実名を出している以上、毎日新聞の記者の発言ととられ、人によっては「毎日新聞がこう言っていますよ」と受け止めるため、そうそう個人的な喜怒哀楽、感情をつぶやくことはできない。自由に好きなことを書けばいいというものでもなく、どうしても縛りがある。だから「serio」と入れてみたのだ。

 

 そんな気分でツイッターを始め、他の人たちが何をつぶやいているのか無作為に読んでいたら、はっとする言葉に行き会った。写真家の大野純一さん(@ohnojunichi)のつぶやきだ。

 

 「真に美しいものを見たとき、人間は、まず、唯、呆然としています。その後、その美は、あなたの知らぬ間に、あなたの実人生を大きく変化させてゆくものへとあなたの中で成長してゆきます。あなたの愛した人や、こと、ものが、あなたに与えた影響の、そのすべての結果のように」

 

 その通りだと思った。ある光景や情景、美しいものを一瞬でも目にしたら、あるいは見るのではなく、それを感じたり、聞いたり、触れたら。

 

 もしくは誰かに心を奪われ、美しい空気に包まれたら、人は知らず知らずに変わっていく。

 

 「美しい空気」と書いたのは、中学生の時に聞いた、小室等の歌が頭の中に残っているからだ。

 

 「恋した二人の 微笑む姿は 水面に投げた石 /誰かの心に 静かにひろがり 微笑みつくる /たとえば二人は それには気づかぬ ふくらんだそよ風」(「愛よこんにちは」)

 

 70年代前半、東日本の中高生に人気のあったラジオ番組「たむたむたいむ」のDJ、かぜ耕二が作詞し、小室等が曲を作り、同名のアルバムのシングル曲として売り出した。小室は当時、吉田拓郎井上陽水泉谷しげると「フォーライフレコード」を創設したばかりで、この曲はその第一弾。私は玉置宏のラジオ番組で流れたのをテープに録音し何度も聞いた。

 

 吉田拓郎は「隣の町のお嬢さん」、その直後に大麻所持で逮捕されることになる井上陽水は「青空、ひとりきり」、泉谷しげるは「寒い国から来た手紙」と、持ち味を生かした曲を発表したが、私はこ小室の曲が好きだった。特に「ふくらんだそよ風」という詩がいいと思った。

 

 愛という言葉で表してもいいが、何か美しいもの、人と人の間に美しい調和が生まれたとき、「ふくらんだそよ風」のような空気が静かに、温かく流れ、人を変えるのではないだろうか。

 

 この連載、「自分が変わること」のタイトルにもなり、初回に引用した、やはり写真家の星野道夫の詩も同じことを言っている。

 

 「例えば、こんな星空や、泣けてくるような夕日をひとりで見ていたとするだろう/もし、愛する人がいたら、その美しさやその時の気持ちをどんな風に伝えるかって/写真をとるか、もし絵がうまかったらキャンバスに描いてみせるか(略)/ (いや)自分が変わっていくこと(略)/その夕日を見て、感動して、自分が感動して変わっていくことだと思う」

 

 そう。幾つになっても人は変わる。美しいものを見て、美しい経験をして変わっていく。大野純一さんの言葉から、改めてそう思った。

 

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新聞社の特派員としてアフリカ、ヨーロッパ、南米を渡り歩いてきた著者は、差別を乗り越えるために、自身の過去の体験を見つめ、差別とどう関わってきたか振り返ることの重要性を訴える。
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