自分が変わること

月刊「点字ジャーナル」連載コラム

1−4−7の法則

2017年7月号掲載

毎日新聞夕刊報道グループ記者(当時)/藤原章生

 

「1−4−7(イースーチー)の法則」というのがある。というか私が勝手に思いついた人間理解法だ。もしかしたら、誰かがすでに言っているかもしれないが、考えがまとまったので、ここで説明したい。

 麻雀をしたことのない人のために丁寧に話したい。麻雀牌、トランプのカードに当たるものは白や発、中、東西南北の文字が書かれた字牌とは別に1から9までの数を示す牌で構成されている。

 ゲームが始まると4人は各自13枚の牌を手に持ち、新たな牌を持って来ては捨てて、最後に誰かが捨てたか自分で持って来た1枚を加え14枚で役(形)を完成させる。一番早く完成させた者の勝ちだ。

 1から9の牌は3種類あるが、複雑なのでここでは一種類として説明する。それぞれ3つの牌の組が4組ある、さらに同じ牌2枚を合わせると形が完成する。

 例えば123 345 567 白白白 99 という組み合わせで完成する。あるいは111 234 555 789 発発 でもいい。

 完成形に一つ足りない状態をテンパイという。例えば、他の3つの組は全部持っていて、23だけがまだ不完全な場合、1か4が来れば完了となり、この場合、1−4(イースー)待ちとなる。

 うまい具合に23456と持っていた場合、1か4か7の3つの牌を待つ良い形で、これを1−4−7(イースーチー)待ちと呼ぶ。

 話は長くなったが「イースーチーの法則」はここから来ている。

 これを一つずらすと、2−5−8(リャンウーパー)の法則、もう一つずらすと3−6−9(サブローキュー)の法則となり、そう呼んでもらっても構わない。

 例えば34567と持っている場合は2−5−8で、45678の場合、3−6−9で待てるわけだ。

 ここのポイントは、大事なことは二つ飛ばしでやってくるということだ。これを世代論に当てはめるとこうなる。

 1−4−7。つまり1910年生まれと40年生まれと70年生まれ、これは祖父母、親、子の生まれた年に当たる。もちろん晩婚もあるし、早くに子が産まれる場合もあるので、5歳前後の誤差はあるが、父母が30歳の時に子が生まれるのをモデルとして提示している。

 例えば私は61年生まれで父は29年、長男は91年生まれなので、3−6−9(サブローキュー)の法則にはまる。

 団塊の世代を考えたとき、彼らの特殊性はむしろその親たちから来ているのではないかと洞察したことがある。これを上の法則に当てはめると、団塊は47から49年生まれなので、四捨五入して50年とすれば、2−5−8の法則にあてはまる。1920年、50年、80年よりそれぞれ若干前の生まれの、祖父母、父母、子と繋がる系譜だ。

 つまり団塊の世代の親たちは1918年前後の生まれだとすれば、大正時代のど真ん中の生まれで、大正デモクラシー自由主義的な空気の下で育ったものの、青年期は昭和恐慌(29年)をもろに受けて不況が続き、のちの軍国主義の荒波で戦争関連でもっとも多くの犠牲者を出した世代だ。団塊の子たち、70年代後半生まれの団塊ジュニアはどうかと言えば、バブル経済のど真ん中、サブカルチャーが旺盛となる80年代に幼少期を過ごし、青年期は経済の長期低迷、就職氷河期にもろにぶつかる。

 この祖父母、父母、子の三代がそれぞれ置かれた社会環境、時代性に因縁を感じないでもないが、もっとも激烈な変化を強いられたのは祖父の世代だろう。

 <父親と息子たちとの間の関係が自由あるいは自由の否定を定義するのである。そして兄弟たちの関係が平等あるいは不平等の理念を定義するのである>。フランスの人類学者、エマヌエル・トッド氏の本「第三惑星」の言葉だ。

 家族が思想を育むと言うトッド氏はこうも記している。<家族とは人と価値を再生産するメカニズムである。それぞれの世代は親たちと子供たち、兄と弟といった人間関係を定義する親たちの諸価値を、無意識のうちに内在化する>(一部略)

 また、誰の言葉であったか、すぐに思いつかないが、ある人物を理解するには彼、彼女がどこで生まれ、父親が何をしてきたかを聞けば、だいたいのことはわかる、というセリフを思い出した。

 もちろん育まれた環境、親、祖父母が本人の思想や人格の全てを決めてしまうわけではない。同じ親でも、生まれた時点から子供の個性は大きく違う。その後の本人自身の体験、感じ方、思考、学び、何かに向けた努力で、人格などいくらでも変わってくる。ただ、一つの考え方として、本や他人の言葉を通し、外から入って来た思想よりも、陰に陽に家族によって培われた思想の方がよりしつこくその人間にこびりつくという考えは、納得できる気がする。

 サルマン・ラシュディが最初の長編「土の中の子供」で、またガブリエル・ガルシア=マルケスが代表作「百年の孤独」で、また、ほかの多数の作家がその代表作を祖父あるいはその世代の物語から書き起こしているのは、単なる偶然ではないだろう。

 小説を書く大きな動機が自分自身を知ることだとすれば、父母の物語、祖父母の物語は避けようのない題材なのだ。

 

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